私と妻が那須に別荘を建てたのは２００６年のことです。私は以前から身の程も知らずに軽井沢に別荘を持つことが漠然とした夢でした。なぜかリゾートにあこがれを抱き、でもかなわぬ夢のまま月日は過ぎ去りました。

２００４年の夏、私の最愛の祖母が亡くなりました。私を我が子のように面倒を見てくれた祖母の死は私にとって衝撃であり、死生観に触れ合う瞬間でもあったのです。「人間いつ死ぬかわからない。死ぬときにああすれば良かった、と後悔するのは嫌だ。」と思ったのです。

そのことがきっかけになり別荘を持つことを具体的に考え始めました。しかし夢見ていた軽井沢は非常に土地の値段が高くとても手が出そうにありません。あるリゾート雑誌を見ていると、軽井沢に比べて那須という土地の値段が格段に安いことがわかりました。

実は那須は小学校のころ林間学校で来た土地で慣れ親しんだ思い出があることに加え自宅からも比較的近い距離であることから那須で物件を探してみることにしました。最初は中古のリゾートマンションに目を付けていました。１ＬＤＫで９００万前後。セカンドハウスとして購入するには現実的な値段です。しかしある不動産屋さんの一言がその後の選択を一変させることになろうとは・・・

リゾートマンションを探しながら不動産屋さんをいくつも回りました。冷やかし程度に入った不動産屋さんでこんなやりとりがありました。「予算もないのでリゾートマンションでいいかなと思っています」

「お客さん、でも９００万だって高いお金ですよ。どうせなら、もっとしっかり考えて本当に価値のあるお金の使い方をしてみれば？」

その不動産屋さんは安物買いの銭失いのようなことはせずに自分たちが本当に買って価値のあるものを選べと教えてくれたのです。私たちは結局その不動産屋さんにお世話になり土地探しから再スタート。小さなセカンドハウスを新築することになったのです。

そして最高の土地に出会い、最高の建築士さんに出会い、最高の家に出会いました。２００６年に完成した小さなセカンドハウスは週末を中心に今も通い続けています。いつ行っても愛着が湧く土地、建物です。いつも帰りたくなる最高の場所です。

その後も週末に通い続けることで私たちは数え切れないくらい沢山の恵みを頂きました。リゾートマンションではわからなかったでしょう。田舎に土地を所有し家を持つことにこんな深い意味があるとは。私は「財産」という意味が初めて分かった気がしています。

１００坪の土地には季節ごとに花が咲き誇ります。７月には関東平野から１か月遅れて写真のような紫陽花が綺麗に咲きます。那須の紫陽花は本当に見事です。他にも４月にはモクレン、５月には芝桜、６月にはオオデマリなど本当に季節の移ろいを全身で味わうことが出来ます。

しかし反面、雑草もものすごい勢いで伸びてきます。梅雨時～盛夏にかけては綺麗に刈ったはずに草が２週間もすれば再び元通りです。しかし不思議なことにその草刈りの作業さえ楽しいと思えてきます。これは体験してみなければわからないことです。人間はやはり元来、自然と共存すべき生き物なのだと体で感じる瞬間です。いや人間が自然そのものと言っても良いのでしょう。

那須の土地がなければ私は野菜作りや果樹の楽しさを知ることもありませんでした。都会のしくみや夜の明かりが、ある意味異常な世界であることに気付くことすら出来なかったでしょう。月明かりの意味を心底理解することもなかったと思います。

私はさらに最近畑のように人間が意図的に作るものだけでなく本当の自然に造られる森に興味を持っています。みなさんは明治神宮の森が１００年前に当時の科学者たちによって意図的に作られたことをご存知でしょうか？私もつい先日のＮＨＫの放送で知りました。森というのは本当に持続可能なシステムなのだと知って私を含め現代人の愚かさを嘆きました。

日本人の祖先は稲作を始めた弥生人だと言われますが実はそれ以前の縄文人は１万年も続く縄文時代を気づいた本当の日本人のルーツだと言われています。縄文時代が１万年も続いた理由はいくつもあり様々な書籍が出ていますのでご興味がある方はお読みになると面白いと思います。その中でひとつのキーになったのが「森」であり「果樹」なのです。